小説

『たかが殺人じゃないか』[辻真先]あらすじと感想(なんだその言い草は。)

さっさ

どうも、さっさです。
今回は辻真先のミステリー小説「たかが殺人じゃないか」ネタバレ無し。
こんな感じの話だと、ほどよくお伝えします。

ミステリランキング3冠
第1位『このミステリーがすごい! 2021年版』国内編
第1位〈週刊文春〉2020ミステリーベスト10 国内部門
第1位〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 国内篇

物語の舞台は愛知県。特に戦後の名古屋市の情景描写は、県民には「なるほど感」が止まりません。

当時の学校教育は、小学校3年生から男女別の教室になるのが当たり前だったそうです。

さらにベテランの先生たち自身は、小1から男女別で授業を受けていたそうです。

同じ教室内に異性がいるだけで、どうやって接したらいいか分からずにドギマギ。そういう描写があります。

小3以降も男女が同じ教室にいるということで、生徒たちもドキドキでしたが、先生側の戸惑いも大きかったそうですよ。

軍部の指令で、高校3年生になるタイミングで無理やり共学になってしまったのが、今回の登場人物たちです。

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登場人物

風早 勝利(かざはや かつとし)17歳
東名学園高校3年生
あだ名は『カツ丼』

咲原 鏡子(さきはら きょうこ) 17歳
東名学園高校3年生
あだ名は『クーニャン』

大杉 日出夫(おおすぎ ひでお)18歳 
東名学園高校3年生
あだ名は『トースト』
弥生とできている。

薬師寺 弥生(やくしじ やよい)17歳
東名学園高校3年生
あだ名は『姫』
大杉とできている。

神北 礼子(かみきた れいこ)18歳
東名学園高校3年生
あだ名は『級長』

別宮 操(べつく みさお)28歳
東名学園高校代用教員
あだ名は『巴御前』

あらすじ

序章

東名学園高校、推理小説研究部の部屋。
別宮先生が入部希望の咲原鏡子を連れて入ってきます。

風早勝利(以下、勝利)は一目惚れをしてしまったのか、咲原をよく見ることができません。

男女共学の始まり(戦時中の名古屋について)

太平洋戦争下、名古屋は人口1人あたりの被弾量で日本最悪の空爆にあいました。

松坂屋の裏の国民学校などは、2000人いた学童が敗戦時には10人に減少していたのです。

最盛期の昼間人口は150万人を数えた名古屋。

敗戦直後には60万人を切りましたが、翌年には早くも72万人近くまで回復しました。

1943年の学制改革以前、中学校・女学校は5年で卒業していたので、過渡期にある勝利たちは就学期間が1年不足してしまいます。

やむを得ず彼らは高校3年に編入されて、1年分追加で履修することとなりました。

それと並行してスタートしたのが、男女共学の大号令だったのです。

戦前の公共教育は、小学校または国民学校の3年生を境に男女別学でしたので、多くの子供は異性に免疫がありません。

幼なじみの女の子と口をきいただけで、男の子は軟弱だと殴られたものでした。

明治以来、男女7歳にして席を同じくしなかった教育者たちだって、困惑したに違いありません。

最初は奇数フロアを男子、偶数フロアを女子としたくらいです。

もうすぐ夏休みですが、3ヶ月たっても異性にどう接していいか分からない生徒が多く、戸惑いの学園生活を送っていました…

別宮先生から部活合宿の提案で三河へ

場所は奥三河、別宮家代々の墓の近くにある湯谷温泉に行きつけ宿。鳳来寺山の入り口です。

鏡子は大陸に行く前に湯谷温泉のあたりに住んでいました。

そこの旅館の「旅荘ゆや」で母が働いていました。

別宮はそこにみんなを連れて行こうとしており、鏡子は驚きます。

鏡子は母が亡くなって行き場をなくして、大陸に渡って過ごしました。
父親が上海で仕事していたからです。

勝利は以前ある夏の日、料亭の板前や女たちと一緒に、湯谷温泉に遊びに出かけました。

昼間から酒を飲み始めた大人たちに飽きて、ひとり離れた川岸で本を読んでいました。

ふと川下を見ると、裸で寝そべっている女子が2人。そのひとりが咲原鏡子だったのです。

勝利が帰宅すると、設楽市会議員の郡司英輔がお客さんとして来ていました。

勝利は郡司に鏡子の評判を聞かれます。

姉の撫子によると、郡司はオンナを見ると誰でも押し倒そうとするらしいのです。

撫子は勝利に言います。

「鏡子には近づくな」

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修学旅行の最中に第1の殺人

設楽市立の民族博物館を見学する一行。

旅荘に戻ろうとした時、崖下から一陣の風が吹きます。

「なにかにおわないか?」

ハエの音もします。

行った先の民主1号と呼ばれる民家では、評論家の徳永信太郎が死んでいました。

周囲を調べると、どうやら密室のようです。

勝利は5年前に川下で見た鏡子の裸体を思い出し、同じ場所に足を運びます。

するとそこに鏡子もやってきました。

当時、誰かが見ているような気がした、と勝利が見ていたことを見破ります。

鏡子の提案で野々村節のおばあちゃん、カヤが入院している病院へ行きます。

数日前そこには生きているはずがない、節の父親である等(ひとし)が見舞いに来たそうです。

その人物は、野々村節が書いた日記を持ち去っていきました。

名古屋までの帰路の名鉄車内で密室殺人の推理をします。

遺体発見時、その六畳間は窓が全開でした。

しかしそこには12センチ間隔の竹格子。誰も通れません。

他の窓は全て鍵がかけられていました。

金山橋駅で大半が乗り換え、残された勝利と操も名古屋駅で別れました。

勝利の修学旅行は終わったのでした。

闇市で勝利は鏡子に偶然出会い、秘密を知る

勝利は大曽根の闇市に向かいます。

目当ての「すばるブックス」で烏色の支那服を着た鏡子を偶然見かけます。

店主「俺が知っているパン助では、1番のきれいどころだ」

進駐軍相手の売春婦を、パンパンと呼ぶのだそうです。

「すばるブックス」を出た勝利は、若者に絡まれる鏡子を見かけます。

「見ないで」

鏡子も勝利に気付いて、声を出します。

若者に殴られて、気を失ってしまう勝利。

するとそこに、ハヤトという大男が助けに入ります。

ハヤト・ロビンソン。
GHQの陸軍少佐ですが、今は軍医として赴任しているとのこと。

鏡子はハヤト専用のめかけのようでした。

キティ台風襲来の夜に、第2の殺人発生

勝利の脚本によるドラマ撮影が始まります。
脚本の内容はこちら↓

女Aと女Bが、この邸の主人を奪い合って決闘する。
どちらかが毒杯を仰いで死ぬ。
いや、実は立会人の女C(邸の召使いもまた主人と結婚する計画を巡らせている)が杯に毒を入れていた。
2人が死ぬと同時に、悪女の正体をあらわにしたCが笑い出す。
すると、死んだはずのAとBがムクムクと立ち上がって、呆然としたCを窓から突き落とそうとする。
いつの間にか密約を結んでいたAとBは、Cの計画を察知していたのだ。
窓際で争う3人。
その窓に雷が落ちて、3人の悪女は死にーあとに窓を飾っていた花々が散っているー
The End.

本文より

推理小説研究部だけあって、勝利にはこんな脚本が書けるんですね。
配役を誰にするか考えるのは、楽しそう!

雷が落ちるシーンをリアルに写すために、台風の夜を選びます。

昭和24年8月31日。
台風10号、通称キティ台風が本土に上陸する。
キティは国際名であり、この年の台風10号にあたる。
27日南鳥島付近で発生した台風は、今日31日にはいって関東地方直撃の気配を見せていた。
隣接する東海地方も午後にはいって風、雨ともに強まっており、こんな形容は不謹慎だがスチールドラマ撮影に絶好の機会を提供することとなった。

本文より

撮影は順調に進みました。

とそこへ、車のヘッドライトの光が近づいてきます。

郡司英輔のフォードです。

ルーフウィンドウ付きのものを買ったと自慢していました。

ですがどこかおかしい。どこに行ったのか、そのエンジン音は嵐に飲み込まれていきました…。

どうやら今夜の撮影の話を聞いて、郡司はカンカンに怒っているらしいです。

学園祭を口実に東名学園の生徒が不純な行為に及ぼうとしていると、思い込んでいます。

仮に違うとしても、そう噂が立ってしまうのが、評議員にとってはよくないということのようです。

別宮先生は、緊張を強めて言い切ります。
「ここまでにして、今夜は解散だ」

セットの撤収作業が進む中、勝利は2階の床に人間の首を発見します。

それは、郡司議員のものでした…

第2の殺人事件後の経緯 

それからの騒ぎを、勝利は2度と思い出したくない。
だがむろん思い出さないわけにはゆかず、それどころか自分の台詞を一字一句間違えずに復唱できるほど、執拗な警察の事情聴取が反復された。

本文より

首の他にも、手と足はそれぞれ左右ひとまとめにして階段の途中に、胴体の包みは1階にありました。

鑑識よると、殺害と解体の現場が車の中だった可能性が強いです。

「私、守衛さんからいくつか証言をもらったのよ」
「なにを?…って、あの晩の人の出入りかい」
礼子の強みは学園の裏方ーたとえば事務のスタッフ、保健室のナース、守衛たちーに、絶対的な信頼を得ていることだ。弥生や鏡子がいくら美少女でも、その点では礼子に太刀打ちできなかった。
手練手管をぬきにして、他人を安心させるオーラを発するのだ。
彼女の周囲についたファンが、天女とあだ名したのも大げさと思えない。

本文より

ちょっと寄り道ですが、こういう人は魅力的ですね。
人懐っこさは間違いなく武器になります。
「能力」も大事ですが「対人関係がスムーズ」というのも、生きる上では大事なスキルです。

話は戻り、1つの謎。

なぜ死体はバラバラにする必要があったのでしょうか?

そして、物語は終盤。

犯人・トリック・動機の解明へ…

感想

戦後の学制発足にあたり、当時の中学5年生は翌年に無理矢理高校3年生になったことの衝撃。

愛知県の地名(名古屋市と設楽市、豊橋市あたりの三河エリア)がガンガン出てきます。

県民である僕には、とても身近に感じられましたね。

特に名鉄の名古屋駅や金山駅の描写は印象的でした。

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ABOUT ME
さっさ
さっさ
塾講師。読書家。
1982年生まれ。愛知県一宮市の塾講師。読書量は年間100冊以上。勉強のやり方、自己啓発や心理学、ビジネスや哲学関連は読み尽くし、現在は小説が中心。読了記録を書き残しています。参考になればうれしいです。
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