「推し、燃ゆ」[宇佐美りん]あらすじ(文字を楽しむのだ。)
第164回芥川賞受賞作。
「どんな作品なの?」と気になっている人、いますよね。
芥川賞とは、純文学の新人に与えられる文学賞です。
純文学とは、文字の並びを楽しむものですね。
先の展開を気にして読むものではありません。
推しが炎上した。ままならない人生を引きずり、祈るように推しを推す。そんなある日、推しがファンを殴った。
「BOOK」データベースより
女子高生の山下あかりは、5人組のアイドルグループの中の上野真幸を推しています。
真幸がファンを殴ったらしく、炎上しています。
あかりは推しと会うために、同じCDを15枚も買っています。10枚買うごとに好きなメンバーと握手できるのです。
あかりが書いているブログでは推しについて語っています。
推しが炎上していることで、勉強も手につきません。
そんな中、祖母が亡くなったり、就職活動について両親に心配されたり…。
あかりの苦悩や、でも生きていかなきゃしょうがない、という心情や情景が最後まで続きます。
愚問だった。理由なんてあるはずがない。存在が好きだから、顔、踊り、歌、口調、性格、身のこなし、推しにまつわる諸々が好きになってくる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、の逆だ。その坊主を好きになれば、着ている服の糸のほつれまでいとおしくなってくる。そういうもんだと思う。
本書より
「おばあちゃん死んじゃった」
本書より
母はリモコンのボタンを何回か乱暴に押し、テレビを消す。蛍光灯と換気扇を消すと沈黙があり、すでに赤い目をした姉がペットボトルに水を入れる。
「着替えて」
唐突だった。大袋のなかに入った個包装のチョコを食べていって、いま食べたそれが最後の一個だったよ、と言われるみたいに、死が知らされる。
こんな感じで、独特の言い回しで、心情を切り取ります。
この作品は純文学。文字の並びを楽しむ作品です。
「この先どうなるんだろう?」と考える必要は一切ありません。ミステリーが好きな人には、拍子抜けするかもしれませんね。
心情や情景の、文字による切り取り方。
これを楽しむのがこの作品です。
これが純文学なのです。